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2008年7月21日 (月)

ヨーロッパとイスラーム世界

中世地中海世界に鼎立したギリシア・東方正教文化圏、アラブ・イスラーム文化圏、ラテン・カトリック文化圏の比較と交流、そして衝突を軸に、異文化の接する地域(スペイン、シチリア)の特異な状況が解説される。ゲルマン民族大移動、フランク帝国、カール大帝など、世界史でお馴染みの言葉が並ぶが、イスラム国家とキリスト教国家の衝突は宗教的なものではなく、むしろ国家間戦争の一環であったとされる。
11世紀、十字軍の遠征が始まると状況は一変し、宗教間戦争の様相が濃厚となる。なかでも、1228年に行われた第五回十字軍の記述が興味を引いた。

第五回十字軍。それは、神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ二世が自らシチリア島へ足を運び、相手側との戦争に依らず二年に及ぶ交渉によって「キリスト教徒とイスラム教徒の平和的共存」と「エルサレムの割譲」を実現した。無論、武力を背景にしての高圧的な態度が予想され、公平でなかったかもしれないが、当時にしては快挙と言えよう。
しかし、肝心のローマ教皇も西洋諸国の貴族・人民は反発した。数年後にこの皇帝が死去した後、ムスリムに対する弾圧が開始された。
わずか10年間の和平合意。
この件を読んで「オスロ合意」の顛末を思い出した。1993年にイスラエルのラビン首相とPLOのアラファト議長が署名したことにより、一時的な和平が訪れた。だがラビン氏は自国民に暗殺され、アラファト氏もPLOでの覇権を維持するために和平方針を撤回せざるを得なくなった。
粘り強い交渉と勇気、指導者の葛藤と決断がもたらした画期的な和平合意も、それによって存在意義を失う勢力によって"反故"にされるという構図は、700年を経ても変わらないのか。

著者は、数年前に話題をさらったハンチントン氏のベストセラー「文明の衝突」に触れ、そこに描かれた世界は訪れないと言う。なぜなら同書は「国家間戦争」の思考に基づいて論じられたものであり、そもそも「文明」のとらえ方に無理があるとする。
かつて地域と時代に大きな影響を及ぼした文明が存在し、幾多の衝突と融合を繰り返してきた人類社会はグローバル化時代を迎え、ひとつの「現代文明」に収斂しつつある。諸処の要因、すなわち国家・民族・宗教観に基づく紛争は絶えることはないだろうが、少なくとも文明の違い=生活・文化・政治思想=他者の一切を否定しての紛争は起こることはないと説く。

最後に、イスラーム過激派のルーツ=第三次中東戦争のアラブ側の敗北とソ連のアフガニスタン侵攻と、ヨーロッパの中流階級であったムスリムのテロリストへの変貌についての考察が掲げられる。かれらの「二流市民」からの脱却への願望と、テロ組織指導者の巧みな正邪シンプルな価値観への誘いが、アル・カーイダその他の組織を強力なものにしたという。
ヒンドゥー社会の最下層民が、ムスリムまたは仏教徒へ変貌を遂げる事態も、同様の理由(二流市民からの脱却)が存在している。自己実現がかなうポジションへのアイデンティティの組み替えが大きな要素であるならば、そこにテロ抑制の鍵があるように思えてきた。

世界史リブレット58
ヨーロッパとイスラーム世界
著者:高山博、山川出版社・2007年9月発行
2008年7月21日読了

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