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2008年10月 8日 (水)

国家の品格

現在日本を蝕む様々な病理。それは、先進国世界共通のものであり、過去数世紀間の西洋的論理・近代的合理主義を追求した結果の姿である。
何事も論理だけに頼ると、いつか破綻を来す。日本人が本来もっていた情緒と形を取り戻し、自らが範を示すことで、世界から尊敬される存在になろう。

数学等の科学・工学は論理が最重要だ。しかし、一般社会に論理を追求するのは間違いであり、人間性に対する深い洞察力こそ重要である。

なんでもありの自由、前提条件のない民主主義、制約のない平等が、社会に歪みをもたらす。
カルヴァン派の極端な宗教観が、現在の西欧式資本主義の背景となっている。利己的な利潤追求の奨励は社会的問題を解決しないし、「神の見えざる手」はまったくの誤りだ。

悠久の自然と儚い人生。その対比の中に美を発見する感性。この「もののあはれ」の感性は、日本人は鋭い。この自然観こそが神道を生み、特定の宗教に束縛されない日本社会を持続させてきた。

江戸・明治期の識字力の高さ、実益に役立たない教養の豊かさが底力となり、明治維新後の脅威の発展を可能にした。だからこそ、表面的にマネをした諸外国は失敗したのだ。

卑怯を知り、弱者をいたわる精神、すなわち明治初期に西欧諸国から絶賛を浴びた武士道精神こそ、これからの日本人が身につけるべきものだ。

小学生に英語教育や株式教育は必要ない。そんな時間があるなら本を読み、国語の基礎力を徹底的に鍛えるべきであり、それが真の国際人の育成に繋がる。

なるほど、ベストセラーになるのも納得だ。

ただ、疑問に思える記述も散見される。たとえばサラエヴォでフェルデナンド大公が暗殺され、急速に第一次世界大戦に拡大する描写は良いのだが、その一因が「民主主義であるがゆえの主権在民に」よるものであるとされている。さらには「主要国の間にはそもそも領土問題もイデオロギー問題もほとんどなかった。国民が大騒ぎして、外交でおさまりがつかなくなり、大戦争になってしまった」とある。
当時、広義の意味で民主国家と呼べるのは英仏だけであり、オーストリア、ドイツ、ロシアの主権は君主が握っていたはずだ。英仏の国政レベルの議会でさえエリート層支配そのものであり、現在の大衆民主主義とは異なるものだ。当時も議会制度が浸透していたとは言え、この辺は、著者の都合の良い解釈になっていると思う。
(正確さが要求される歴史書ではないし、目くじらを立てることもないのだが。)

「一般国民は成熟した判断ができない」との指摘も、一面ではその通りだと思う。劇場型選挙に目を奪われ、本質的な部分を理解しないまま、選挙戦が繰り広げられる様は、まさしくポピュリズムの典型だ。前回の衆議院"郵政"選挙もそうだったし、ここ数年の米国大統領選挙もモロにあてはまる。日々の勤めに追われる"われわれパンピー"は専門家じゃないんだし、マスコミによる扇情、ネット空間の"勢い"、カリスマ・タレントの"思いつき発言"等に幻惑され、あらぬ方向へ走ることもある。
それでも、国民集団として最終的・大局的な判断を下す能力は失われてはいないと思うし、そうありたいと思うことで、潜在的な判断基準は保たれているはずだ。

素直に飲み込めない点もあったが、内部にエネルギー("その気"ってヤツ)の活性化するのを感じ、満足な読後感を得た。
個々人の品位を回復し、日本人としての矜持を保ち、堂々と世界と渡り合う、か。良し!

国家の品格
著者:藤原正彦、新潮社・2005年11月発行
2008年10月7日読了

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