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2009年6月27日 (土)

時が滲む朝

1989年。ベルリンの壁が崩れた、この記憶に残る年に発生した天安門事件は衝撃的だった。
北京の天安門広場に独裁共産党の機甲部隊が突入し、幾多の学生、市民を殺害した事件は、当の中国では「無かったこと」として片づけられている。大陸の赤いGoogleでは検索の対象外であり、資本主義が中国共産党に屈服した現実を顕現している。

さて、話題の中国人の芥川賞受賞作を読んだ。

前半の舞台は秦漢大学。勉学に励んできた田舎出身の二人が大学生が、テレサ・テンの甘い歌声に胸をときめかし、学生運動のリーダーに連なる「小柄なおかっぱ頭の女学生」に密かな恋心を仄めかす。青春のみずみずしさが見事に表現されている。
北京に呼応して活発化する民主活動。一方で迷惑、「商売の邪魔」との本音も存在し、現実は厳しい。そしてある事件が厳しい人生を二人に突きつける。

そして、亡命中国人たちが煩悶する90年代の日本が後半の舞台だ。日本語の話せない彼らに生活苦が遅う。香港返還を声高に叫ぶ民主活動家は「祝香港返還」を恥ずかしげも無く表明する商売人に変貌した。かつての民主活動は日に日に勢力が衰え、いかにアルバイト賃を上げてもらうか、妻への不満をぶつける等の愚痴を言い合う場に変貌し……。

すべてに絶望し、父親に電話するエピソードは、思わず涙ぐんだ。

随所に散りばめられた伏線が、ラストシーンへと繋がる構成は見事だ。

何度も何度も涙を飲み込み、無念さを乗り越え、現実に立ち向かって生きる姿。「狼の孤高」を限界まで耐え抜き、時を経て、家族愛に満ちた「自らの居場所」を発見するに至る。

政治問題を扱った文学は数多いが、家族愛に満ちた本作の読後感はひとしおだ。

時が滲む朝
著者:楊逸、文藝春秋・2008年7月発行
2009年6月27日読了

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