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2011年10月15日 (土)

日本脱出記 大杉栄

関東大震災の直後、伊藤野枝と共に東京憲兵隊に殺害された無政府主義者、大杉栄(オオスギエイ)。その1923年のフランス滞在記だ。面白い。

本来はベルリンで開催予定の"無政府主義者国際会議"出席のための洋行だったが、パリでのドイツ入国許可取得に手間取り、パリ北郊外はサン・ドニのメーデー集会で演説したために逮捕され、日本へ強制送還されることになる。
第一次世界大戦後、フランスがルール地方を占領したばかり。ドイツに関係する物事はことごとく敵視・警戒されていたのが祟ったのだな。

・東京と神戸での監視をすり抜け出国するも、船内と上海でも官憲はつきまとう。パリでも制服警官が監視する。その目をかいくぐって活動し続けると、なるほど、慣れてくるのだろう。一度や二度の逮捕・拘束もへっちゃら、らしい。

・当時の上海はアジア最大の政治都市だ。共同租界やフランス租界では共産主義者、社会民主主義者、無政府主義者の会合と反目が演じられ、モスクワ、パリ、ベルリン、東京との連絡拠点となっていた。ここで大杉は朝鮮反日勢力、支那抗日勢力のアジトを訪問する。
・すでに1920年の段階で「抵制日貨」が始まり、朝鮮人街では日本人の排斥運動が盛んになっていたことがわかる。

・パリでは、フランス無政府主義同盟機関『ル・リベリテール』(自由人)社を訪問する。
・カルト・ディダンティエ。パリでは外国人、内国人に限らず警察署発行の身分証を携帯しなければならない。所持しない外国人は即刻追放だ。これは現代日本でも取り入れるべき正しい政策だろう。

・パリの衛生事情は日本人には耐えられないものだ。最高級ホテルでない限り宿にトイレはなく、シャワー室すらない。大杉の宿泊した労働者街の"高級ホテル"では、2階の階段下に傾斜したタタキと穴があり、それがホテル唯一のトイレだと言う。閉口した彼の自衛策もとんでも無いが、他に方法は無い。パリジャン、パリジェンヌの入浴は2~8週間に一度、街中の風呂屋に通うのみと言う。"花の都"の名折れか。
・安ホテルでは部屋に電灯すらない。昔ながらの石油ランプ。
・街中でタクシーに乗るも渋滞、渋滞で歩く方が早い。1920年代からそうなのか。

・パリの赤裸々な風俗事情! キャフェで飲食すると、若い女が色目を流してくる。街を歩けば、目を奪われるような白人女や混血女が声を掛けてくる。近くの劇場へ隠れると、ぼったくりキャバレーだったりする。慌てて出る。"街の女"の多いこと!
・貧しい女店員や女工(ミディネット)の生活事情。週給60フランでは生活は成り立たず、年間に不足する2千フランをどうやって捻出するのか? 昼休みや夜間に本業以外のアルバイトをし、食費を削り、被服を削り、遊興をあきらめ……。ある者は「お友達の男」と会う。涙ぐましい努力。そして日常化する堕胎……。当時の他の日本人洋行者=ブルジョア階級出身者の作品には決して表れてはこないだろう。

・監獄(未決囚監獄)の独房の様子が細かい。案外とノンビリした印象を受ける。八畳間の半地下窓付き独房には、ベッドだけでなく机と椅子付き。特段の監視もなく、昼間から白ワインをチビリ、チビリとやる。気楽と言うか、監獄慣れしているな。
もっとも、外部のレストランからディナーを"お取り寄せ"できたのは金のある最初のうちで、後はミジメな監獄食に頼ることになる。3週間後の公判で禁固3週間の刑罰が下り、即日釈放=国外強制退去となった。

・「外遊雑話」では往路の船旅の様子が記される。日本人には良く理解できない欧州人の"ユダヤ人差別"が船上でも繰り広げられ、ベトナムで威張り腐る水兵の正体は職にあぶれた貧しく粗雑なフランス人だし、サイゴンで必要以上に白人にへりくだるベトナム人の姿に、大杉は辟易する。
支那人学生の集団が「安南(ベトナム)をフランスから取り返さなければ」と息巻く姿もある。まだ民族自決の概念が習熟していない時代の、半植民地人の喜劇的な勘違いか。大杉も「救いはこんな愛国者からはこない」と的確な評価を下す。(p189)

・余談。同棲者である伊藤野枝との間に生まれた長女の名は"魔子"って、思い切ったなことをしたんだな。(さすがの猿飛を思い出したぞ。)

日本脱出記
著者:大杉栄、土曜社・2011年3月発行
2011年10月15日読了

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