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2011年10月16日 (日)

大正文化 帝国のユートピア 竹村民郎

著者は、国内でしか通用しない"明治・大正・昭和の時代区分"にこだわらず、1910年代、1920年代、1930年代それぞれの政治的・経済的特徴を把握し、戦前文化を考察することを提言する。
なるほど、都市部では華麗なモダニズムが花開き、グローバリズムの先駆けとも言える海外貿易・文化交流が盛り上がった"大正デモクラシー"が消沈し、「欲しがりません、勝つまでは」のスローガンの下、国民服を着用し天皇陛下万歳を連呼し、一億玉砕が叫ばれるに至る構図がみえてくる。

・明治維新後、西洋文明が急速に導入されたが、それは産業面と上流社会でのこと。大正10年頃においても和式住居に和服で住まうのが一般的。特に女性の洋装は"変わり者"扱いされていた。カフェの女給も着物にエプロン姿だ。
都市部のサラリーマンはグレースーツが定着していたが、家では和装に戻る。
関東大震災を機に洋式化が一挙に進んだ。

・1920年代になるとデパート、銀座のウィンドウショッピング、キネマと舞台観劇の後、カフェでコゥヒィやソーダを味わう等、夜と休日の娯楽は充実していた。
一方で、家事労働の過酷さは想像以上。炊事洗濯掃除に子守。特に着物の洗濯は、縫い目をほどいて洗い、一枚板に天日干し、非電気アイロンがけときた。まったく気が遠くなる。
大衆の憧れ洋食の三大メニューがライスカレー(肉少し)、コロッケ(申し訳程度の肉)、トンカツ(薄く引き延ばした肉)。現在以上に国産牛は高価だったことがわかる。

・第一次世界大戦は欧州に多大な災禍をもたらしたが、日本でも輸入が途絶えるなどの影響を被った。逆説的にこの事態が各種のイノベーションをもたらし、神戸の造船・機械産業の発展等、重化学工業の顕著な発展につながった。
電気機関車の国産化、工事技術の開発による鉄道路線の飛躍的な延長をはじめ、社会変革と市場需要を掌握した企業家とヒット商品の誕生(カルピスなど)、国産ミシンの開発・普及、松下幸之助の電気ランプ、等々。
やがて巨大財閥と"成金文化"が幅を利かし、やがてインフレと米騒動を引き起こすこととなる。

・大量生産と大量消費による、1920年代の華やかな日本。ホワイトカラー族=サラリーマンの間では舶来の万年筆、懐中時計、カメラが人気を呼ぶ。

・阪神モダニズム。本書を読んで嬉しく思ったことは、意外に京阪神地区、特に神戸に関する記述の多いことだ。旧居留地、ユーハイム、モロゾフ、オリエンタル・ホテル、トア・ホテル、阪神電気鉄道、阪神急行鉄道、郊外住宅地としての阪神地区=芦屋、香櫨園、御影の開発、宝塚大劇場、甲子園球場、六甲山リゾート、海水浴、阪急百貨店、有限責任灘購買組合(コープこうべ)……。
工業地帯であった大阪と神戸が、同時に対中国向け綿糸布の輸出港、内外海運の中心であったこともあり、大衆的な大量消費市場とレジャーによる充実した市民生活のスタイルを形成したことが示される。

・デパートの"土足入場"が可能になったのは、1926年の大阪三越と大阪大丸かららしい。それまではスリッパに履き替え……文字通り、大衆には敷居が高かったんだな。

・ジャーナリズムの発展は競争を即す。過酷な販売競争の結果、時事、報知、国民等の旧来の新聞は廃刊に追い込まれる。そして性格は変化する。
中立性を掲げ、その実、権力追随の姿勢が大新聞の基調となった。現在の朝日、読売、毎日、日経、産経の系譜。大本営発表=記者クラブ会見発表の追随と、上から目線の購読者への態度は、このころから形成されてきたんだな。

・結局、大正文化とは何か。都市の市民の自由な生活感覚と孤独感を基調としつつ、アメリカの大衆文化と伝統的社会のモラルが接木されたものと著者は示す。政治的成熟は道遠く、極端な一派(サンディカリスト、アナーキスト、共産党)を除き、リベラリズムは皇室中心主義との衝突を回避し、取り込まれ、サンディカリストの思想を転用したファシズム、そして軍部中心の世界観へと日本社会は引きずり込まれてゆく。

・"実務"が"政党"を制圧した。行政サンディカリズム。1920年代、国民の政治への関心の低下がこの事態を招いたのだ。そして、国家総動員態勢へ!(p208)
内閣単位で交替する大臣と異なり、上層に君臨するキャリア官僚の権力が増大するのは当然。この点、局長クラスまで交替させられる米国の政治制度は合理的かつ賢明だ。


今日、自画自賛的な響きを持つ"クール・ジャパン"と呼ばれるそれは、流行に左右される表面的なエンターテイメントでしかない。「娯楽であると同時に、知的な挑戦」(p13)のない限り、それは廃れるし、その兆しは見えつつある。
二大政党の泥沼化が定着して久しい。民主党は期待外れだけでなく、むしろ害悪をもたらしたと言える。自民党も力の所在が感じられないし、政治離れは止まらないだろう。

今日、強力な指導力を持つ軍部はない。天皇中心史観も表面化していない。だが、アメリカ政財界と、財務省や経産省のキャリア中枢部の意向に、政治はたやすく左右される。

「大戦期以後政党政治にたいして国民が不満をもっているのに乗じて、軍部は天皇を中心としたユートピア国家をつくるようなイメージを描きながら国民の同意を組織しつつ、しだいに独裁体制をつくりあげていった」(p156)

「震災復興という国民的合意の下で異端を排除し、人々は天皇を中心とする新しい国づくりというユートピアに熱中し、一方で現実肯定的で楽天的なアメリカニズムを追いかけた。」(p197)

周りを見ずに、上を見る。流されることなく生きてゆきたい。

大正文化 帝国のユートピア 世界史の転換期と大衆消費社会の形成
著者:竹村民郎、三元社・2004年2月発行
2011年10月12日読了

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