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2012年3月19日 (月)

牧野義雄のロンドン 恒松郁生

夏目漱石と同時代、単身でアメリカ、パリ、ロンドンに渡り、苦節十年の末、独特の水彩画がブレークし、"霧のマキノ"としてイギリス美術界、社交界に名を馳せた人物がいた。
霧の画家、牧野義雄。
本書は牧野の代表作品を紹介するとともに、彼のロンドンでの活動、在英日本人との交誼、家族関係を解説する。著者はSoseki Museum In London ロンドン漱石記念館(いつか行きたい)の創設者。

気に入った作品を何点か。
・『ピカデリー・サーカスの夜景』(p20):夏の夜だろうか、まだ薄明るい中に立ちこめた霧が電灯に照らし出され、エロス像と馬車が広場を行き交う人々を引き立てる。一番のお気に入り。
・『ハイドパーク・コーナー』(p52):霧に灯が浮かび上がるハイドパークの夜の闇。それでも馬車と人の群れは絶えることがない。ヴィクトリア時代からエドワード時代にかけての大英帝国の活況が画面から溢れ出てきそうだ。
・『月夜のヴィクトリア・タワー』(p67):雲に月光が反射し、薄明るい夜に国会議事堂の黒いシルエットが浮かび上がる。灯りの下に佇む(たぶん)若い女性は、ウエストミンスター・ブリッジの向こう側から来るはずの良人を待っているのだろうか。ムード溢れる一作だ。
・『ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館』(p80):霧の満ちたサウス・ケンジントンの一角で、宵の中に歩む貴婦人達は、鑑賞したばかりの質の高い芸術をたたえ合っているのだろうか。後期印象派の影響が感じられる一作だ。

牧野はコナン・ドイル氏の肖像画も描いていた(p95)。彼はシャーロック・ホームズ物語の出版先がなかなか見つからなかった苦労を語ったそうで、まだ無名の牧野には幾ばくかの慰めになったことだと思う。

悲しいかな、再度訪英した際には"過去の人"として、メディアに相手にされなかったらしい。その後、個展を開催するもパッとしない。第二次世界大戦後に帰国し、最晩年は鎌倉の安アパートで餓死同様の最期を遂げたそうな。
芸術家は孤高の人生を歩み、臨終の際も孤独に堪え忍ばねばならない。作家ワイルドしかり、画家ゴーギャンしかり。華やかな最盛期を送った印象派画家の大家、たとえばルノワールにしても、本質は同じだったのではないだろうか。

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Yoshio Markino's London
牧野義雄のロンドン
著者:恒松郁生、雄山閣・2008年2月発行
2012年3月19日読了

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