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2012年4月14日 (土)

幻燈 大佛次郎

わずか数年でガラリと社会構造の変わってしまうことの、その凄まじさよ。自分と家族を支えるのは身分や既得権益ではなく、本人の"気概"であることを本書は教えてくれる。それは2012年の日本でも同じことだ。

『幻燈』
旗本の長男として生を受け、明治維新後めまぐるしい変化をみせる社会に士族として対峙し、やがて新聞記者見習として新時代の生活に臨む助太郎と、横浜の大工の家で町娘として育ち、助太郎に好意を寄せつつ、成金商家に奉公をはじめる種子(タネコ)の物語。

数年ぶりに東京を訪問した助太郎。横浜から新橋への初めての鉄道旅。江戸城前では、栄華を誇った武家屋敷群が廃墟と化した様を目の当たりにして呆然と立ち尽くすが、それでも銀座へ出向く。異人さんの経営する新聞社へ電撃訪問し、この身を雇ってもらう。
あきらめではなく、新時代への挑戦する若い決意は、実に清々しい。

田舎者(薩摩、長州)が支配する新政府の拙さへの批判、兎飼育ブーム、英語学校と漢文学校の書生のケンカと酒、旧弊にこだわり没落する士族と、流れに逆らわず前向きに生きる士族。当時の世相を映し出し、面白く読めた。
木村荘八さんの挿画が多数掲載されているのも良い。

『幻燈(初出短編)』
仄かな瓦斯燈が灯り、夜店のカンテラが狐火のように点々と滲む"ハマ"の馬車道。その飲み屋を出た路上で、与吉はかつての若主人、藤代繁実に出会う。
藤代は扶持を失った旗本の若君。渡欧している間に幕府が瓦解し、親類も友人も"16代様"に附いて駿府へ渡ってしまったことから、藤代は孤独な身を横浜へ移し、清国人に偽装して外国貿易に従事しはじめた。その留学経験を活かし、流暢な英語で米国人との商取引を進める一方、ホテルの自室で硯を摺り、毛筆の見事な漢文をしたためるところには、旧旗本家の教養の深さが窺える。
旧友の悪事を見過ごすことなく、わざわざ山中に舞台装置=屋敷まで建築し、ある女性の無念を晴らす様子は痛快だ。
ラストシーン。散歩にでも出かけるように「亜米利加へ行って住むのだ」と言ってのける姿に、開国後の新しい潮流に乗ってスマートに生きるコスモポリタンらしさを感じた。

大佛次郎セレクション
幻燈
著者:大佛次郎、未知谷・2009年6月発行
2012年4月14日読了

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