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2012年6月12日 (火)

ライオンと蜘蛛の巣 手島龍一 [読書記]

日常からインテリジェンスの世界へ身を置くと、いかに感性が研ぎ澄まされるか。著者の"過酷な世界"での体験が散りばめられたエッセイ集。危機管理の難しさから、軽いテーマのものまで29編を収録。

・アランセーターの人
アイルランドの海岸村に隠棲する本英国諜報部員との再会。冷戦を機会に寛大な占領と戦後を"満喫"してきた日本の、それゆえの今日の苦難に対し彼の言葉は厳しい。
著者の述べるように「冷たい戦争のひんやりとした空気を真に呼吸することがなかった」われわれは、未来を構想する能力をいつしか摩耗させてしまったのかもしれない。(p47)

・『鉄の胃』宰相
再統一されたドイツの初代首相、ヘルムート・コール氏。大食漢であり"行動する人"であった氏の逸話を描く。欧州通貨統合への強い決意を述べた"黒い森のスピーチ"に、著者は戦後西ドイツの歩んできた「社会的市場経済」からの転換を読み取る。第二次世界大戦で辛酸を舐めた生々しい記憶。その貧しく惨めな体験がワイマールの残滓と絡み合い、アメリカ型市場経済と異なる道を歩ませたのは当然のことだろう。これは、2003年頃に新自由主義経済へと舵を転換するまで"平等"を標榜してきた日本も同様だと思う。
グローバル化は必須とはいえ、格差がますます拡がる社会の行く先は、暗く見える。もう一度"第三の道"を模索することはできないのだろうか。

・白き沈黙の道
若き大学院生、ポール・ウォルフォウィッツ氏とリチャード・パール氏。二人を指導する上院議員、ジャクソン氏。1945年のユダヤ人強制収容所を視察した際の衝撃から育まれた信念は揺るぎない。
「全体主義の不正を眼の前にして、決してひるんではならない。アメリカという自由な丘の上にたつ国家が、その強大な力を行使することをためらってはならない」(p220)
この強い思いが、後にイラク戦争を主導する二人のネオコン政治家を育むことになる。
アメリカを体現する力の信奉者の系譜は、どこへ繋がるのだろうか。

なぜアメリカがスーパーパワーでいられるのか。また世界中に帝国の残滓を散りばめ、二つの世紀を超えて影響力を保持するイギリスの力の源泉がどこにあるのか、その理由(わけ)を垣間見ることができたように思う。

ライオンと蜘蛛の巣
著者:手島龍一、幻冬舎・2006年11月発行
2012年5月20日読了

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