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2012年9月11日 (火)

ハクティビズムとは何か 塚越健司 [読書記]

ハクティビズムとは何か。なんでしょう? と書店で手にとって購入した。

大衆ネット社会の黎明期を終えつつある現在、コンピュータ技術と歩みを同じくして変化を遂げたハック人=ハッカーたちの系譜と、彼らが現実社会に与えてきた影響がわかりやすく解説される。

ただし、ハッカー集団による政治的攻撃=社会インフラの機能阻害さえ、必然的現象かつ正義的行為のように論じる一部の記述には違和感を覚えた。

なるほど、MITで生誕したハック人の聖地は西海岸に移り、ネット社会の広がりに先行するカタチで世界中に拡散していったのか。

1990年代に本格的なネット規制が試みられる。1996年に成立した通信品位法は検閲に直結するとして、大規模な反対運動が展開された。この法は結局、言論の自由を保障した米合衆国憲法修正第一条に反する、との違憲判決によって無効化されるのだが、その過程で公表された「サイバースペース独立宣言」に興味を惹かれた。既存諸政府からのネット空間の独立を掲げ、公共の福祉による統治を高らかに謳う内容は、英国の支配に反旗を翻し、独立を宣言した米国の理想を彷彿させる。
国家権力の介入を拒絶し、ネット上で自発的に自治を成し遂げる公正で人間的な精神文明を謳うのは良いが、著者の述べるように、初期のMITエリートが占有していた時代と異なる「2012年現在のインターネット=サイバースペースの状況を見てもわかる通り」、ネット利用者の爆発的な増大により「サイバースペース上の自治を自分たちで達成することは不可能」なのだろう。(p88)
だからこそ、倫理の保たれたあるべき姿、初期ハック人たちの理念として、大衆化ネット社会における規範として、あえて高潔な宣言を掲げておくことが重要だろうと思う。

で、hacktivism ハクティビズムとは。
・自らがつくりあげたツールを用いて社会に影響を与えること、ハッカーたちの社会運動(p8)
・明確な政治目的をもって情報技術を用い、新しい社会のあり方を創造する(p99,108)
・サイバースペースの自律と自由が無理ならば、今あるこの世界を逆にサイバースペースの力を借りて再創造するしかない(p106)

そして、ウイキリークスの登場につながる。その活動は、情報の透明化や不正撲滅の一歩を踏み出した(p110)とあるが、"情報の透明化"は真に正しいことなのか、繊細な外交機密や企業秘密の暴露は許容されるのか。高い技術力を保持する者が社会倫理を問われることなく、自己の信ずる世界への変革を強いるのは、果たして正しいことなのだろうか。

もうひとつの潮流が、アノニマスだ。その掲げる大儀「情報の自由を守る」は良いとして、DDoS攻撃や特定企業あるいは個人の情報を流出させる行為は、もはや非暴力運動の域を超えているのではないか。
「膨張し続けるアノニマスが権力体として振る舞うことで、抗議という名の恐怖を社会に与える存在になる」(p208)

責任主体のない社会変革運動とサイバーテロリズム、その曖昧な境界をどうとらえるか。興味深い論点となりそうだ。

ハクティビズムとは何か ハッカーと社会運動
著者:塚越健司、ソフトバンク新書・2012年8月発行
2012年9月11日読了

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