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2013年7月19日 (金)

モダン都市東京 日本の一九二〇年代 海野弘 [読書記]

本書は、大正から戦前の昭和の活き活きとした時代を活写しながらも埋もれてしまった文学作品を取り上げ、地に足を付けて散策しつつ、現代社会を特徴づける巨大都市の"生態"とその時代の人間模様を「私的な、感性的な目による都市の記述(p52)」=都市文学を軸に現代に蘇らせてくれる。

・隅田川岸、浅草、日比谷、上野、銀座、新宿、本郷、小石川、品川の底から見上げる、あるいは郊外から俯瞰する大東京の姿。そこにはパリ、ニューヨーク、上海など世界的大都市との同時代性が、グローバリズムの原形がそこにある。

・現代まで引き継がれる都市文化の礎を築いたモダニストたち。一方で、個人に目覚めた下層工場労働者たちの連帯と騒擾。モダニストとプロレタリアの邂逅と対抗は新たな社会的・文学的価値観を育む。

・機能主義、構成主義、ダダイスム、都市のアンダーワールド。イメージと言葉を通しての幻視(p33)。20年代の新しい都市文学は美術、演劇、映画など視覚的、空間的、総合的な他の芸術との交流のうちに成立する(p80)。2013年ならばさしずめ、全員参加型のネット動画が該当するか。

・1920年代を彩る役者に貴族は欠かせない。日本でも第一次世界大戦を境に没落する華族の最後の輝きが当時の文学作品に悲喜劇の華を添える。見せかけの権威にしがみつく者と、富を誇示する新興ブルジョワジーの珍妙な取り合わせも面白い。(p132『ミスターニッポン』)

・新宿駅の告知板のメッセージ。書かれては消される運命にある言葉の数々も都市の記号となる。不特定多数の人にも読まれる、物言わぬ都市の群衆のつぶやき(p206)。現代ならSNSだが、この視点では何の記号、シンボルとなりうるのだろうか。

・雑踏の中の孤独も都市の特徴だ。新宿駅の陸橋に佇む林芙美子が感じた、都会の中の根無し草的な自己の存在(p216)の侘びしさよ。

・都市のディテイルを見る目と都市をまるごと見る目のモンタージュ(p275)。空間化されたフィクションとしての都市の表現方法は面白い。

・都市化の次の段階としての、インターナショナリズムとリージョナリズムへの偏向(p307)。これはなお現在も続いている。

・夜間尋常小学校なるものの存在に衝撃を受けた(p17)。途上国では日常的だが、日本でも1911年に最低就労年齢が12歳に"引き上げられる"までは、児童労働も合法的だったのか。

・関東大震災による大建築の被害は、震動よりも火災によるもののほうが甚大であった(p89)。帝劇、警視庁、大蔵省、内務省、丸の内の豪壮なビル群。耐震のみでは不十分。教訓としたいな、

・新聞などのマスコミは「資本家の持ち物で、従って資本家の爪牙であるべきことは理の当然」だ。それなのに「常に労働者や下女の味方らしい顔をしたがるから、滑稽だ。偽善もここまでくるとお愛嬌になる」とは1931年の日比谷公園での大ストライキの取り締まりの様子を報道する新聞記事を、内部の記者自身が批判したものだ。面白い(p96)。

・第一次世界大戦後の好景気に沸く日本に、特に1922年以降に朝鮮から大量の労働者が移住してきたことは興味深い(p294)。低賃金であり、日本人の労働運動から疎外されていたことは過酷ではあったが、強制連行ではないし、ましてや慰安婦ではない。昨今のかまびすしい歴史認識問題を考えるにはこの辺りの視点も必要だと思う。

1930年代に入ると「時代は転向しつつ」(p323)あり、社会は政治・軍事色に染まってゆく。
20年代を特徴づけるアヴァンギャルドな特性が断絶した東京。1950年代に復活を遂げたそれは、薔薇色の発展を前提にしたポストモダンに彩られていた。かつての日本的モダニズムは影を潜めてしまったが、1920年代の都市を歩くことで、その名残を実感できることを本書は示してくれた。

モダン都市東京 日本の一九二〇年代
著者:海野弘、川本三郎(解説)、中央公論新社・2007年5月発行
2013年7月17日読了

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