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2014年5月16日 (金)

ベル・エポックの肖像 サラ・ベルナールとその時代 [読書記]

世紀末パリの繁栄をまさに体現した大女優、サラ・ベルナールの半生を、彼女の生きた時代の中に観る。

■第一章、第二章はサラのデビューから成功を勝ち取り、その名声を不動のものとするまでを、第二帝政期から第三共和国成立の時代とともに紹介する。

・ナポレオン三世が権力を掌握した第二帝政期。オスマン男爵によってパリは生まれ変わり、オートクチュールの元祖、ウォルトとユージェニー皇妃がファッションを先導し、オペラ座建設が着工され、高級娼婦を交えた社交界華やかなりし時代にサラは出生する。
パリ大学法科を卒業した父親から認知されず、ダンサー出身で高級娼家を営む母親に育てられた幼少の彼女の境遇は、まさに「椿姫」の世界だ(p35)。

・9歳からの6年をヴェルサイユの修道院に学んだ後、後見人のモルニー公爵の後押しにより、国立音楽演劇学校へ入学する。喚起多発で個性的な少女は女優の才覚を磨き、17歳にして国立劇場コメディ・フランセーズでのデビューを果たす(p48)

・人生は平坦ではない。大政治家による後押しを俳優仲間から嫉まれ、評論家に酷評され、終生の性格となる癇癪をときに爆発させて衝突する日々。ジムナーズ座、そしてオデオン座への移籍を余儀なくされる。
ナポレオン三世に対する不敬事件(p54 追放されたユゴーの詩を玉座前で朗読)とその縁で邂逅したベルギー王子との大恋愛が、愛息子を誕生させる。なるほど、スケールも大きい。

・1869年『去りゆく人』の成功が、その名演と美声をもってサラの地位を不動のものにした。

・第二帝政の末期はひどい。ユージェニー皇妃に押し切られ、プロイセンとの戦争に臨んだものの完敗し、パリ市民は窮乏を強いられる。民主制への期待は高まろうというもの。ともあれ、普仏戦争を乗り越えたフランスに亡命者ユゴーは凱旋し、女優の看板作となる『リュイ・ブラス』と、前代未聞の大入りをサラにもたらす(p80)。

・第三共和制の成立後、昂揚する愛国心と相まってユゴーの新作『エルナニ』も当たり、サラは大女優の道を突き進む。そして”愛は友情への最短の道”を信条とするサラには、男女間の仲は実にオープンだったようだ。スキャンダルも数知れず。

・1878年のパリ万博では係留式熱気球が人気を呼んだが、サラは一般人ではない。セレブらしく19世紀の空中旅行を楽しんだそうで(p100)、2014年ならさしずめ、ヴァージン社・ブライトン氏の小宇宙旅行が該当するな。

・そして『椿姫』。初演がアメリカ公演だったとは意外だった(p121)。

■第三章、第四章は、一挙に華ひらいたベル・エポック期パリを舞台に、サラと交歓しあった多彩な文化人が紹介される。

・オスカー・ワイルド、プルースト、マネ、ロイ・フラー、アナトール・フランス、ゾラ、ガレ、ジャン・コクトーなど、世紀末の才能を凝縮した時空というものは存在し、それがパリであったことがわかる。
ミュシャとの邂逅も運命的だ。

・1890年、マルタン座にて『ジャンヌ・ダルク』を主演するサラを撮影した写真家ナダールの一枚が残されている。このパースペクティブが実に良い(p165)。

・1900年パリ万国博覧会にて旋風を巻き起こした女優、貞奴も忘れてはならない。クール・ジャパンなど比較にならぬ。ジャポニスムが世紀末文化にもたらした影響は、今日われわれの想像を超える(p206~212)。

・ロシア・バレエ団の衝撃(p222)。オペラ座の北側の小広場にその名を残すディアギレフ氏。彼の選んだ挑戦の地も、またパリだったのだ。

■そして女優は去り、パリは爛熟の1920年代を迎える。
特筆すべきは、サラ最晩年の精力さだ。右足を切断しても舞台に上がり続け、最期のそのときまで人に愛されたいと願う気概は並大抵のものではない。

・エジソンの蓄音機に声を刻みつけた写真が残っている(p126)から、現在にも伝わっているはず。直に識ることができなくとも、映像と音声で彼女の片鱗に触れられればなお素晴らしい。
・モンテ・カルロはガルニエホールにサラとギュスターブ・ドレの手になる彫刻が遺されているそうなので(p89)、いつか観に行こう

サラについては恥ずかしながら「ミュシャのリソグラフの人」くらいの認識しか持ち合わせていなかった。本書を読み終えたいま、その凄まじいまでの大女優のエネルギー=生きる力に圧倒された。

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ベル・エポックの肖像 サラ・ベルナールとその時代
著者:高橋洋一、小学館・2006年1月発行
2014年5月15日読了

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