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2014年12月 1日 (月)

敗北を抱きしめて ジョン・ダワー [読書記]

破壊された人生。戦後のアイデンティティ・クライシスの時代にありながら、瓦礫の中からすべてをやり直した祖父と祖母の世代の偉大さがよくわかる。

本書は、アメリカ人日本研究者による帝国日本から戦後日本への変遷を考察した大書。なるほど、外部からみると、その姿があからさまにされるのだな。

■日本国憲法の「国民の統合」は、明治憲法の「家族国家イデオロギー」の言い換えであり、よって日本国の本質は変わらない。「国民」に異民族は含まれず、「血統」に基づく強固なナショナリズムを象徴するのが天皇であることに変わりはない。(下巻p5)
なるほど、これが日本人大多数のアイデンティティの根拠でもあるのか。

・9章から11章にかけて、昭和天皇の戦争責任をいかに「なかったことにするか」にGHQと日本政府が腐心したかが追跡される。
国家の最高位にある政治的・精神的指導者が何の責任も負わないのなら、どうして普通の臣民たちが反省などするのだろうか。(下巻p4)
政府は「一億総懺悔」と責任転嫁を唱え、戦争責任の追及は矛先をそらされた。

・一方で、日本人の戦争責任は十分に果たされたとすることもできる。東京をはじめとする大都市への民間人無差別爆撃と原子爆弾による虐殺行為。そうではなくていったい何なのか。
「全ての歴史のなかでもっとも無情かつ野蛮な非戦闘員殺戮行為のひとつ」であり、人種戦争を終わらせるべき(下巻p16)と米軍准将が内部覚書に描いたとされる通りだろう。
悲しいかな、この人種戦争の構図は、21世紀に入ってもやむことはないのだ。無人機による民間人爆撃という形でいまも続いている。いずれ欧米にとって「イスラム国」以上の脅威が出現するのは間違いないだろう。

・憲法の改正。当時、政府はポツダム宣言やGHQの要求に対し、明治憲法を民主的に「解釈」することで対応できると考えていたそうな(下巻p116)。憲法の解釈でどんなことにも対応できる。ん、最近もどこかで聞いたような話だな。
しかし、この曖昧かつ頑迷な日本政府の態度が、マッカーサーに「三原則」なるガイドラインを構想させ、これが戦後憲法の土台となるとは実に皮肉だ。
 1)天皇は国家元首ではあるが、職務と「機能」は憲法に示される国民の基本的合意に応じるものとされる。
 2)国の主権としての戦争は廃止され、防衛と保護をより崇高な理想に委ねる。よって日本には「あらゆる」交戦権も与えられない。
 3)皇室を除き、華族の地位は廃止され、封建制度は役割を終える。
なるほど、九条のベースがここにあるな。
野心的かつ意欲的。世界中に類を見ないほど民主的な憲法。
パリ不戦条約をモデルとした戦争放棄条項が明記されるも、周到なのは、後日の日本再武装に備えて、わざと曖昧さを含ませた件だろう。(下巻p143)

GHQ民生局によって作成された草案が日本の手にかかり、周到に改変されてゆく様は面白い。peopleはアメリカ的な「人民」から明治憲法の特色を残す「国民」に変遷し、これが現在まで続くことになるのか。(p162)

■かつて、東京・銀座や大阪・梅田を闊歩したモダンガールが「若さを失い、知性を失い、その日一日を育るためにすべてを失っている」(上巻p112)様子は悲痛だ。
人生設計は破壊され、敗北の文化を生き抜くこと。僕の祖父や祖母もこのような生活を強いられたかと思うといたたまれない。

■米兵向け売春施設のおぞましさ。19歳の元タイピストが自殺した心中は痛々しい(上巻p154)。

■「裁判」を著す15章と16章の読むのが辛い。東京裁判だけでなく、戦後、アジア各地で行われたBC級裁判はひどすぎる。
東京裁判にしても米軍高官をして「自分の国や戦時政府に対する義務を遂行した人間を裁くのは間違っている」と言わせるほどの酷さ(下巻p265)。
勝てば官軍の過酷な現実。「数十万人の陸海軍人や民間人が海外であっさりと消えて」(上巻p48)しまった事実や、下巻p286からp290に至る「不公正」な裁判の現実は、怒りすら抱かせるものだ。

「核の傘」の下での再軍備。「日本全土にわたって米軍の基地と施設を引き続き維持しなければ」ならない(p409)のであり、これが2014年現在まで、否、半永久的に続くのだとすれば、敗戦の代償の巨大さに悲嘆せざるをえない。

ネットとグローバル化の波に洗われ、個人のアイデンティティや個性を保つのも大変な時代だ。
平和と民主主義。いまや日本人の心情とも言える、この崇高な理想主義に恥じない生き方をしたいと思う。

EMBRACING DEFEAT
Japan in the Wake of World War Ⅱ
敗北を抱きしめて(上) 第二次世界大戦後の日本人
著者:John W.Dower、三浦陽一・高杉忠明(訳)、岩波書店・2001年3月発行
2014年11月10日読了

敗北を抱きしめて(下) 第二次世界大戦後の日本人
著者:John W.Dower、三浦陽一・高杉忠明・田代泰子(訳)、岩波書店・2001年5月発行
2014年11月24日読了

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