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2015年1月 2日 (金)

下着の誕生 ヴィクトリア朝の社会史 戸谷理衣奈 [読書記]

ヴィクトリア朝初期の厳格な価値観が徐々に弛緩し、20世紀にはその服飾だけでなく、女性の意識が大きく変化していった。
本書は学術誌や一般誌によらず、19世紀に隆興した女性誌を題材に、ヴィクトリア朝上流社会・中産階層・上級労働者階級の女性用下着からファッション、健康意識から旅行ブームをはじめとする文化全般を追い、そのモダン文化への変遷を探る力作となっている。

・写真技術の発達とブロマイドの普及が、"美女"の概念と自意識とを急速に女性に広め、細すぎるウエストへの執心を生み出す。クリノリン・スカートとタイトなコルセットによる美しい体型の追及が女性の必須事項とされた時代の到来だ。

・だが人体の"塑性"がもたらす歪みは、人生のみならず、国家の行く末への影響も懸念されはじめ、やがて健康ブームを引き起こす。さらに鉄道技術の発達、旅行行為の大衆化などの要素が相まって、19世紀に人々の行動範囲は一挙に拡がると、"行動"に適したファッションが求められるようになる。

・1870年代には女性たちは気候をはじめとした身体感覚と密接に関連づけた形で世界を再解釈した(p115)。健康をうたい文句にロマンスへの期待を込めて旅行に立ち、南の暖かな空気の元に流れる怠惰な時間、ゆるやかなモラル・完全な解放感のなかで羽目を外した(p116)。

・家庭用照明器具と暖房器具の普及による「室内の温室化」が、室内着の薄着化と"見られる"下着の装飾化をもたらす。ここに現代へ連綿と続く下着ファッションの幕開けとなる(第6章)。

・下着だけではない。女性らしい装いを保ちつつ、ウールやツイードを着こなす人々の出現(p164)は女性の「自意識の高揚」となり、最終的には、女性の地位向上、20世紀的な男女同権の要求へとつながっていく。

・旧世代の価値観=女性の閑暇は、19世紀末には名声ではなくなり(p190)、女性美の理想が大きく変わろうとしていた。現代の"自立した女性に備わる魅力"はなるほど、こうやって形成されてきたのか。

地方に根付いた新聞などと違って、女性誌は統一された内容で編集されたことが特徴である。幅広い読者層の興味をひき、消費社会へと誘うこれら女性誌が、文字通り帝国各地で読まれることにより「大英帝国における女性文化の統合に一役買っていた」(p232)のであり、その影響はヨーロッパ人のみならず、あまねくアジア・アフリカ社会にも及んだことだろう。
近年、クール・ジャパンなる寒い活動に日本政府が公的予算を費消しているが、サブカルチャーの大衆的な浸透経路としては如何だろう。ヴィクトリア朝時代の女性誌の影響を見習って良いように思う。

下着の誕生 ヴィクトリア朝の社会史
著者:戸谷理衣奈、講談社・2000年7月発行
2014年12月26日読了

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