« 「彼等」 キップリング [読書記] | トップページ | ロマンス 柳広司  [読書記] »

2015年2月15日 (日)

政党政治と天皇 伊藤之雄  [読書記]

大正から昭和初期にかけてのイギリス型立憲君主制とデモクラシーの萌芽と発展から、政党政治が瓦解してゆくまでの軌跡を通読でき、この時代の一面を理解できたように思う。
但馬地方の憲政会議員や青年党の活動を対象としたフィールドワークの成果も興味深い(p244他)。

・天皇機関説的な天皇像。昭和になって「大帝」のイメージが作り込まれた明治天皇も、実際にはこの意味するところを十分に理解し、不要不急な政治関与を抑制していたという(p25)。大正天皇も昭和天皇もしかり。だが軍部国粋主義者共同体は満州事変によって勢いづき、美濃部達吉と天皇機関説を「叛逆思想」として葬ってからは、天皇主権説が覇権を取る。参謀本部が実権を掌握し、若い昭和天皇も押し流され、傍観する。全体主義国家のはじまりである。

・世界大戦期に産業は急成長する。鈴木商店のすさまじさを筆頭に紡績、造船、鉱業。経済成長率は、実に年平均28パーセント(p74)。こうやって稼いだ外貨も、中国へのよくわからない借款となり、満州事変を経て83パーセントもの膨大な焦げ付きとなるのだから、たまったものじゃない(p88)。現在のODAと変わらないじゃないか。

・対華二十一ヶ条要求は抗日機運を高めただけでなく、潜在敵国アメリカを刺激し(中国を擁護)、同盟国イギリスに不信(市場の侵食)を抱かせた(p71)。いわばすべての失敗のはじまり。若き昭和天皇も指導力を発揮できず、政党対官僚閥の争いとのあいまって、国民の将来に災いを招くことになる。本当に悔やまれる。

・パリ講和会議。山東省のドイツ利権の継承に関する件を読むと、中国への進出は最初から無謀な行為であったことがわかる(p120)。

・軍部。この不気味な言葉が急に使われ出したのは、1930年4月頃とされる。参謀本部と軍令部が官僚と政党内閣の統制を離れ、「憲法解釈」=統帥権の独立性を盾に自立した行動をとり始めた時期であり、天皇への忠誠も名目だけのことになっていたのか(p317)。

・満州事変の発端となった柳条湖の事案。関東軍は良いとして、日本の内地軍に属する朝鮮軍が関東軍の要請を受け、日満国境を超えて雪崩大陸になだれ込んだのはまずかった。天皇の事後承認となり(p343)、軍部主導の戦時体制がここに出来上がる。文化文明が吹き飛ばされ、非常時が常時となる暗黒時代の到来。


ワシントン会議では日英同盟が破棄されただけでなく、中国の権益を巡って日本とアメリカに潜在的対立を残す結末となった(p200)。せめて日英同盟を日米英の三国協定に発展させることができていれば、老練なイギリスの力を拝借し、日本の運命は変わっていだろうに。
国家百年の計という。長期的な視点をもって外交路線を進むことの重要さ、そして困難さを思わずにはいられない。


日本の歴史22巻
政党政治と天皇
著者:伊藤之雄、講談社・2002年9月発行
2015年2月14日読了
Dscn2635

« 「彼等」 キップリング [読書記] | トップページ | ロマンス 柳広司  [読書記] »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/134563/61141566

この記事へのトラックバック一覧です: 政党政治と天皇 伊藤之雄  [読書記]:

« 「彼等」 キップリング [読書記] | トップページ | ロマンス 柳広司  [読書記] »

フォト

他のアカウント

おすすめ本

見て下さいね!

  • BMW Japan
    愛車の2001年式E46 320i Mスポーツは快調ですが、E90 3シリーズクーペも魅力的です! 335i、誰か買ってくれないかな~~
  • United Nations Peacekeeping
    現代のアメリカ帝国の一方的かつ傲慢な「強者の論理」がまかり通る世の中ですが、国連経済社会理事会はまだまだ機能しています。そしてPKOの理念もまた!
  • 『ル・モンド・ディプロマティーク』日本語・電子版
    日本に存在しないものの一つが「クオリティ・ペーパー」だ。この大陸欧州(コンチネンタル)の知性が、日本語で堪能できるのです! インターネッット様々ですね。
  • BBC NEWS | News Front Page
    英連邦の残滓は資産でもあります。日本のメディアにほとんど現れることのないアフリカ、南アジアの記事が豊富です。
無料ブログはココログ