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2015年4月12日 (日)

十二月八日の幻影 直原冬明 [読書記]

海軍少尉、潮田三郎。外国文献の翻訳という"虚しい"任務に辟易していた日、見慣れぬ佐官に文句を付けたことにより、軍令部直属の特別班への突然の転属を命じられる。
構成員わずか二人。日本武士道の正面攻撃とは相容れない、家の名誉と軍の誇りとも無関係にみえる防諜任務に、理解しがたい上官の渡海海軍少佐の個性は、若者を打ちのめす。わずか一か月の仮配属期間の満了を心待ちに、潮田は初日からある重要機密に接する……。

陸軍は在日外国大公使館の暗号解読班、憲兵隊、内部に巣食う「コバヤカワ」、海軍の大物予備役にして元首相、外務事務次官、アメリカ大使、MI6=SIS将校、そして大物間諜「エゴイスト」。彼らの油断ならない行動は、日本の運命を、そして潮田を、ある極点へと導いてゆく。

・渡海少佐の発想力と行動力は実に魅力的だ。咄嗟に分析・理解し、状況に応じて臨機応変に対応する人物像は、ヒーローそのもの。

・「電気ソロバン」の暗号解析、さらに飛躍した応用(ある装置)への展開に新鮮味を覚えた。理学部卒、コンピュータ関連の職を経験した著者ならではの作品だと合点が行く。

・「否、諦めない」に続く潮田の行動には実に好感が持てる(p244)。極限におかれても人間ならこうありたいと鼓舞してくれるような、本書で気に入った部分の一つだ。

宣戦布告なき日中戦争が泥沼化し、かつての同盟国イギリスと最大の通商国アメリカにより、日本帝国が徐々に追いつめられてゆく情景。一片の情報がわずかの人間に運用され、それが一国の命運を左右しかねない現実の畏怖。そんな中でも活路を見出そうとする若者の行動力と潔い決断力は魅力的だ。
だが本書で気に入ったのは、実は「コバヤカワ」の信念だ。それはまさに戦後日本の姿となって顕現したわけだが、p270にある主張などには、当時共感を覚えた知識人も多かったのではないだろうか。
「男の革命の結末」(p141)がどんなものであれ、人の信念の力の偉大さを思わせてくれる、そんな作品像を想いつつ読了した。


The Phantom of December 8
十二月八日の幻影
著者:直原冬明、光文社・2015年2月発行
2015年4月11日読了

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