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2015年5月23日 (土)

執事とメイドの裏表 新井潤美 [読書記]

執事、家政婦(ハウスキーパー)、レイディーズ・メイド、フランス人料理人、一般メイド、フットマン、ナニー(乳母)等を章立て、古今の英米文学と演劇・映画を題材に、広く海外に輸出、あるいは拡張されたイギリス使用人の「イメージ」を探る一冊となっている。

・バトラー。日本での「執事」のイメージは「従僕」のそれであり、本来の執事の役割は、旧約聖書の時代から飲み物の管理だったそうだ。とはいえ、時代の推移とともに旧来の家令の役割を兼ね、屋敷の運営を差配する身となる。それゆえ、執事は使用人の中でも最高の地位を占め、場合によっては主人を超え、その屋敷の顔ともなってゆく。

・メイドさん。アッパークラスの大邸宅に住み込む専業者=ハウス・メイド、キッチンメイド、パーラー・メイド、レイディーズ・メイドは労働者階級を出自とする若者にとって出世街道の第一歩でもある。人気ドラマに表出する確執、恋愛、破滅など各種人間関係の舞台でもあり、中には雇用主の恋愛・結婚に至る例もあったとか。一方で恋愛沙汰の「罪」で破綻した彼女たちの末路は「夜の女」であり、その実態は悲惨だ。また、低ミドル・クラスに雇われる「メイド・オブ・オールワーク」の過酷な環境にも同情せざるをえない。

・フットマン。「下男」と訳せば戦前日本の辛苦の労働青年を思い描くが、イギリスのはイメージが異なる。採用には「華やかな容姿」が重視され、その給料は身長で決定付けられたという。20世紀になっても大時代的なお仕着せに身を包み、「ジェームズ」や「チャールズ」といった名で大げさな挙動で客に応対する様は、その家の「格」を顕現したものである。一方で、主人や客以外には不躾で傲慢な態度(p171)をとり、プライベートでは種々の問題を引き起こす遊び人でもあったとされるから面白い。

著者あとがきにあるように、いまやイギリスの文化遺産ともなった使用人のイメージは広く海外に輸出され、たとえばアメリカでは多忙なワーキング・ウーマンになくてはならないプロフェッションナル・ナニーとして、日本でも「執事」や「メイド」として存続している。
強い階級制によって育まれた職業「使用人」が時を経て淘汰・変質し、「イギリス文化」へと昇華した小歴史を面白く知ることができた。


執事とメイドの裏表 イギリス文化における使用人のイメージ
著者:新井潤美、白水社・2011年11月発行
2015年5月21日再読了

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