« 女三人のシベリア鉄道 森まゆみ [読書記] | トップページ | ペリー 佐藤賢一 [読書記] »

2015年11月16日 (月)

飛行機と想像力 橋爪紳也 [読書記]

本書は航空技術史・社会史としてではなく、大正・昭和初期の同時代人に多彩な新しいイメージを開かせた文化装置として飛行機の意義を考える。人の意識の変容、イベント、メディアの役割、デザイン、国防論、空中都市への幻想等、多岐にわたる記述が魅力的だ。

・豊富な図絵と写真が想像力を掻き立ててくれる。雑誌が普及する前の視覚メディアである絵葉書も十分に掲載される。高層都市に飛行機の飛び交う「未来の都市」(p23)や今竹七郎「世界一周大飛行」(p235)が気に入った。

・大正前期に来日した外国人パイロットへの接し方は大々的だ。現在の宇宙飛行士のような立場にあった彼らの事績が本書でも数多く紹介されるが、アート・スミスのアクロバット飛行や、女性アクロバット飛行家キャサリン・スチンソン(なんと19歳、p64に振袖姿の写真)は印象的だ。(3章『飛行機と武士道』)

・昭和に入ると日本人パイロットが活躍を始める。注目したいのは新聞社の果たした役割である。大阪朝日新聞と大阪毎日新聞・東京日日新聞陣営の競って開催した華やかな航空イベントが社会に与えたインパクトは相当なもので、国策とも結び合って、遠くは欧州までの飛行にまで結びつく。部数増が目的とはいえ、小冒険旅行が国策的英雄譚に変遷してゆく様は感動的ですらある。(5章『メディアと航空イベント』)

・日露戦争時の大本営参謀次長、長岡外史の事績が興味深い(p223~228)。プロペラのような長い白鬚が印象的な軍人にして、大正時代に日本の専守防衛を説いたとある。帝國飛行協会の副会長であり、衆議院議員として航空政策の確立を主張するなど、民間航空事業へ尽力。日本初の「エアガール」の審査員であり、これも日本初の「空中結婚式」の媒酌人を務めたとある。死に際しては空中葬を遺言に記し、相模湾に空中から遺骨を投下させた人だ。素晴らしい人生だったんだろうな。

・信じられない数の航空博覧会が開催されていたんだな。個人的には昭和五年の神戸「観艦式記念海運博覧会」が興味深い(p196)。

・スピードの1920年代! 機械技術が日常生活に浸透しはじめた時代(p238)にあって、自動車・飛行機・地下鉄など、それまでの移動感覚をくつがえす交通機関が周囲に出現したことは、当時の人々にいかなる刺激と衝撃を与えたことか。古賀春江、杉浦非水らの機械的なグラフィックデザインは、いまみても新鮮な喜びを与えてくれる。

飛行機が「ある時代に開花した都市文化の源泉」(p266)であり、当時の人々の想像力にいかなる刺激を与えたか。本書を通読することで、その一幕を垣間みられたように思う。

飛行機と想像力 翼へのパッション
著者:橋爪紳也、青土社・2004年3月発行
2015年11月16日読了

Dscn3729

« 女三人のシベリア鉄道 森まゆみ [読書記] | トップページ | ペリー 佐藤賢一 [読書記] »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/134563/62690369

この記事へのトラックバック一覧です: 飛行機と想像力 橋爪紳也 [読書記]:

« 女三人のシベリア鉄道 森まゆみ [読書記] | トップページ | ペリー 佐藤賢一 [読書記] »

フォト

他のアカウント

おすすめ本

見て下さいね!

  • BMW Japan
    愛車の2001年式E46 320i Mスポーツは快調ですが、E90 3シリーズクーペも魅力的です! 335i、誰か買ってくれないかな~~
  • United Nations Peacekeeping
    現代のアメリカ帝国の一方的かつ傲慢な「強者の論理」がまかり通る世の中ですが、国連経済社会理事会はまだまだ機能しています。そしてPKOの理念もまた!
  • 『ル・モンド・ディプロマティーク』日本語・電子版
    日本に存在しないものの一つが「クオリティ・ペーパー」だ。この大陸欧州(コンチネンタル)の知性が、日本語で堪能できるのです! インターネッット様々ですね。
  • BBC NEWS | News Front Page
    英連邦の残滓は資産でもあります。日本のメディアにほとんど現れることのないアフリカ、南アジアの記事が豊富です。
無料ブログはココログ