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2015年12月31日 (木)

原理主義の終焉か ポスト・イスラーム主義論 私市正年 [読書記]

2011年1月チュニジアのジャスミン革命と、ムバラク大統領の退陣が衝撃的だったエジプト革命。これらに続くアラブ諸国の変革。この「宗教よりも、自由・人権・人間の尊重が重視される政変」(p1)は1989年東欧民主主義革命を彷彿させてくれるが、その背景は似て異なる。
本書は、革命の背景となったポスト・イスラーム主義、すなわち新しい政治的・社会的・文化的潮流が形成されるに至る1960年代から2011年にかけてのイスラーム主義運動の変遷を追う。

・独立の興奮やまない1960年代。民衆が期待を寄せたナショナリスト政治指導者は腐敗政権へと堕落し、世俗主義的ナショナリズムへの信頼は急速に失われる(p9)。そして特に急激に増加した貧しい都市住民の支持を獲得したイスラーム主義運動が、マルクス主義者との闘争に競り勝ち、地域ネットワークを通じて1980年代に勃興する。

・1989年にピークに達したイスラーム主義運動の目標、すなわち「イスラーム法による政治制度を持つ国家建設」の非現実性が1990年代を通じて明らかとなる。窮乏化した都市青年層を中心とする一派に政治的調整能力の欠如は明らかであり、彼らの一部はテロリズムへと走り、中間階層と大衆は離反する。そして「神の正義を信じず、戦いについてこない」一般市民をテロの対象とみなす(p54)。

・ポスト・イスラーム主義。それは宗教の政治からの分離であり、イスラームと、個人の自由や選択との連合の思想である(p62)。その政治的合法化を探る主流派が、やがて2011年のアラブ革命を指導し、イスラームをバックボーンとしながらも現実的な政策を掲げた世俗的政権を担うようになる。

・一方でイスラーム法に基づく「想像の共同体」を志向する運動が現われるが、その担い手は、西欧に生を受けたムスリム移民の二世、三世である。生まれながらにしてマイノリティーであり、親の出身国との紐帯を持たない彼等のアイデンティティーは、イスラームにこそ見出された。「言語や文化や伝統などの民族的差異をこえてムスリムとして連帯する、トランス・ナショナルな集団」はクルアーンとイスラーム的慣行にのみ忠誠を誓う。国際的ジハード主義者の根はここにある(p65,80)。彼らにに国への帰属意識はない。自分たちのローカルなイスラムが、ネット空間によってグローバルな世界と結びつくからであり(p87)、それはグローバル・テロリズムを是とする。

無差別テロに走るジハード主義とは一線を画した、穏健派イスラーム主義。インターネットに代表される情報革命を体験し、市民社会的価値観をシェアする自由な社会を求める市民の声。両者の結合がイスラーム社会に「非宗教的な民主主義革命」という歴史上の革新をもたらした。

2015年11月13日に引き起こされたパリ同時テロ事件。この事例でも明白な通り、いまや国際的ジハード主義者はイスラームにとっても敵となった。そして穏健派イスラーム主義者は「われらの側」にある。

イスラームを知る 11
原理主義の終焉か ポスト・イスラーム主義論
著者:私市正年、山川出版社・2012年4月発行
2015年12月27日読了

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