« Newsweek日本版 2016/6/14号 | トップページ | 2016年6月 横須賀軍艦めぐりとルノワール的な東京の旅 その1 [男ひとり旅の美学] »

2016年7月 3日 (日)

女だけの町(クランフォード) エリザベス・ギャスケル [読書記]

1830年代のマンチェスター近郊のとある小さな町には、なぜか淑女ばかりが集っている。元牧師の姉妹、小商いで財を設けた隠居様、貴族を縁戚に持つ老女様、個性豊かな顔ぶれではあるが善良な人々。そんな社会を余所者の視点で活写したメアリー・スミスの語りはユーモアと愛情に満ち溢れ、穏やかな読書を体感できた。当時の社会生活を思い描かせてくれる描写も魅力的だ。
なお、主人公のメアリー・スミスはp311にやっと本名が明かされる20代の独身女性で、著者ギャスケル夫人の化身でもある。

・カードパーティの最中、ディケンズとジョンソン博士を巡っての、ミス・デボラ・ジェンキンズのブラウン大尉に対するヒステリックな対応に微笑んでいたら、次の章で悲劇が待ち受けていようとは。だがこれも世の中のひとつの事象にすぎない。

・ジェンキンズ姉妹の若き日、弟のピーターが父との諍いによって家を飛び出し、海軍へ入隊した話。母の亡くなった翌日に、ピーターからの心づくしの贈りものが届き……(p136)。本書前半のベストエピソード。新幹線の座席で、思わず涙をぬぐってしまった。

・「過ぎし昔のの恋物語」~「独身老年訪問記」の章、時を置いて最終章で語られるミス・マチルダ・ジェンキンズのロマンスは哀しくもあるが、とても美しい人生の記憶の一ページ。

「破産」~「事ある時の友」は、本作品のテーマが凝縮されたエピソード。主人公の泣き崩れるシーンは辛く、だが晴れ晴れしい(p313)。良い人間関係とは、当人の心がけ次第であることが明白だな。
「めでたく帰る」~「クランフォードに平和到来」は、350ページに渡って綴られてきた多様な人物譚の集大成。そして、インドで亡くなったと思われていたピーターの消息が、ある人物のつながりから偶然に知れることとなり……。

平和と思い遣り、そして「好き」でいることの貴さ。殺人も許容されない敵意もなく、人間の幸福がここまで見事に描かれた物語は他になかなかない。ヴィクトリア朝カントリータウンの面白く暖かい物語に、心満たされる読後感を得た。

CRANFORD
女だけの町(クランフォード)
著者:Elizabeth Gaskell、小池滋(訳)、岩波書店・1986年8月発行
2016年7月2日読了

Dscn6805_2

« Newsweek日本版 2016/6/14号 | トップページ | 2016年6月 横須賀軍艦めぐりとルノワール的な東京の旅 その1 [男ひとり旅の美学] »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/134563/63863913

この記事へのトラックバック一覧です: 女だけの町(クランフォード) エリザベス・ギャスケル [読書記]:

« Newsweek日本版 2016/6/14号 | トップページ | 2016年6月 横須賀軍艦めぐりとルノワール的な東京の旅 その1 [男ひとり旅の美学] »

フォト

他のアカウント

おすすめ本

見て下さいね!

  • BMW Japan
    愛車の2001年式E46 320i Mスポーツは快調ですが、E90 3シリーズクーペも魅力的です! 335i、誰か買ってくれないかな~~
  • United Nations Peacekeeping
    現代のアメリカ帝国の一方的かつ傲慢な「強者の論理」がまかり通る世の中ですが、国連経済社会理事会はまだまだ機能しています。そしてPKOの理念もまた!
  • 『ル・モンド・ディプロマティーク』日本語・電子版
    日本に存在しないものの一つが「クオリティ・ペーパー」だ。この大陸欧州(コンチネンタル)の知性が、日本語で堪能できるのです! インターネッット様々ですね。
  • BBC NEWS | News Front Page
    英連邦の残滓は資産でもあります。日本のメディアにほとんど現れることのないアフリカ、南アジアの記事が豊富です。
無料ブログはココログ