« 倫敦!倫敦? 長谷川如是閑 [読書記] | トップページ | 20世紀イギリス短篇選(上) [読書記] »

2017年6月 8日 (木)

フィリグリー街の時計師 ナターシャ・プーリー [読書記]

ピアノをあきらめた内務省の電信オペレーターに届けられた懐中時計。精密すぎる仕掛けのそれは、スコットランドヤード爆弾テロの渦中から孤独な彼、サニエル青年の命を救う。知古の刑事からの依頼で、日本人の時計技師に接触した彼は、完璧な英国英語を話す金髪の"男爵"、そのモウリこそ時計の製作者であり、まるでぜんまい仕掛けのような彼の不思議な能力に惹かれつつ、爆弾魔の犯人としての可能性を探ってゆく。そして、伯爵令嬢にして"奇抜な"科学者であるグレイスとの邂逅……。
1880年代のロンドン・ウエストエンドと明治日本を舞台に、サイバーな冒険劇が繰り広げられる。
それにしても、ぜんまい仕掛けのたこ、"カツ"は愛らしいなぁ。

・ハイドパークの片隅に実在した日本人村、ギルバート&サリヴァンの「ミカド」、1860年代の日本のレボリューション、廃城令、華族の訪欧、伊藤博文など、著者日本留学中に執筆された、まるで日本の読者に向けて書かれたと思えるような嬉しい逸話が満載だ。でもオペレッタ「ミカド」が本作のように制作されたのなら、それはそれで哀しいなぁ。

・瓦斯燈、電信機だけでなく、人感センサ付き電気照明、数十の"ぜんまい"軸受けによるハイテク鳥ロボット、光を媒介するエーテルの実験など、当時の技術水準を超える要素の数々が、本作にスチームパンクの要素を添えている。

・後半はサニエルとモウリの親密さがヒートアップする。世紀末の物語とはいえ、こうまで親密すぎるのはいかがなものかと思う。少なくとも僕には気に入らない。

・爆弾魔の正体が見え見えなのは愛嬌。あと、グレイスの幸せな生活を願わずにいられない。

いくつか気に障る点があるものの、階級差別・人種差別が当たり前に存在した世界観の中、蒸気機関車の地下鉄、ケンジントンの街並み、少数の民族主義者の活動など、1880年代のロンドンのパースペクティブがこれでもか、と思うほどに凝縮された本作は、実に魅力的だ。続編、続々編も企画されているとのことで、いまから楽しみだ。


THE WATCHMAKER OF FILIGREE STREET
フィリグリー街の時計師
著者:Natasha Pulley、中西和美(訳)、ハーパーBOOKS・2017年4月発行
2017年6月7日読了
Dscn1137

« 倫敦!倫敦? 長谷川如是閑 [読書記] | トップページ | 20世紀イギリス短篇選(上) [読書記] »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/134563/65383475

この記事へのトラックバック一覧です: フィリグリー街の時計師 ナターシャ・プーリー [読書記]:

« 倫敦!倫敦? 長谷川如是閑 [読書記] | トップページ | 20世紀イギリス短篇選(上) [読書記] »

フォト

他のアカウント

おすすめ本

見て下さいね!

  • BMW Japan
    愛車の2001年式E46 320i Mスポーツは快調ですが、E90 3シリーズクーペも魅力的です! 335i、誰か買ってくれないかな~~
  • United Nations Peacekeeping
    現代のアメリカ帝国の一方的かつ傲慢な「強者の論理」がまかり通る世の中ですが、国連経済社会理事会はまだまだ機能しています。そしてPKOの理念もまた!
  • 『ル・モンド・ディプロマティーク』日本語・電子版
    日本に存在しないものの一つが「クオリティ・ペーパー」だ。この大陸欧州(コンチネンタル)の知性が、日本語で堪能できるのです! インターネッット様々ですね。
  • BBC NEWS | News Front Page
    英連邦の残滓は資産でもあります。日本のメディアにほとんど現れることのないアフリカ、南アジアの記事が豊富です。
無料ブログはココログ