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2017年11月27日 (月)

都市の周縁(モダン都市文学Ⅲ) [読書記]

本書は16編の小説、3編のルポタージュ・座談会と、小コラムから構成される。大正末期から昭和初期にかけて拡大した都市の盛り場とその周辺――ダークな部分を含めて――の賑わいと悲哀を堪能することができた。
しかし、いつになっても男は騙される運命にあるんだな。

■武田麟太郎『日本三文オペラ』
浅草の三階建てアパートに生息する多種多様な人間たち。トーキーの普及により失職寸前の映画解説者、若くても女に相手にされない萎びた安酒場のコック、60過ぎて恋仲となった老夫婦、呉服屋のせり売りの桜とその女房、そして、アパートの管理人。下層階級の悲喜こもごも。個人的には近メガネをかけて30過ぎて女を知り、手ひどく騙されたコックに同情を禁じざるを得ない……でも、女の父親との会話は実に面白いぞ(p116)。狡猾な映画解説者の最期は、さもありなん(p124)。

■佐多稲子『レストラン・洛陽』
愛想笑いに終始してパトロンを探し、銀の釣盆に残されたチップから日銭を稼ぐカフェの女給の生活は極めて厳しい。関東大震災からの復興時に浅草六区に雨後のタケノコのように設営されたカフェの事情は、どこも似たようなものだったろう。病気の旦那と莫大な借金と子供を抱えたお芳、娘に洋服を買い与えて上野公園を散歩するのが夢の夏江、憲兵と心中するお千枝……。ライバル店の繁盛を横目に、経営の傾くカフェレストラン・洛陽。花見すら行われず、景気後退を身に染みて感じ、パトロンに離れられ、ウイスキィをがぶ飲みする上得意に逃げられ……。脳梅毒で亡くなる寸前の「木片のような」お芳の顔(p184)。
近代日本・新東京の暗黒面の辛さが、読後感を重くする。

■川端康成『水族館の踊子』
「ね、お魚にも、情熱ってものがあるでしょうか」(p192)
客引きの"一等利口な"兄を自慢する千鶴子。大規模カフェ、カジノ・フォーリーの"水族館"で愉しげに踊る姿は微笑ましい。だが、やはり借金、である。その重みは人を滅ぼす。特別な顧客への特別な接客、竜宮……。彼女の復讐の物語でもある。

■石川淳『貧窮問答』
木賃宿の三畳間に寝泊まりすることになったインテリ。好いた牛飯屋の娘に、翻訳を終えたら二百円が手に入ると述べたことから、群がってくる下層階級の群れ。暴力団員、宿屋の掃除婦、娘を抱えた労働者……。一時の情に流され、牛飯屋の娘にもあっという間に騙されるインテリ君。本書で異色をなす作品。面白い。

■コラム『元町通』は昭和5年正月の神戸の様子がうかがえて嬉しい気分(p423)。

他に、地方から駆け落ちしたティーンエイジャーの姿を描く龍胆寺雄『機関車に巣喰う』、ばくち打ちの世界を覗き見る広津和朗『隠れ家』、浅草のダンス・ガールを描く今日出海『泣くなお銀』、法善寺横丁「めをとぜんざい」と「しる市」の登場する織田作之助の味わい深いエッセイ『大阪発見』、佐藤春夫『路地の奥』等を収録。

モダン都市文学Ⅲ 都市の周縁
編者:川本三郎、平凡社・1990年3月発行
2017年11月27日読了

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